雛段の五段目で表情豊かに座っている「仕丁」。その表情から「怒り上戸」、「笑い上戸」、「泣き上戸」の「三人上戸」とも呼ばれてきました。彼らの持ち物は掃除道具や、傘や履物、宴会セットなどさまざまなパターンがあります。仕丁と役割分担について解説します。
仕丁の役割 ――人生の喜怒哀楽
宮中に仕える男性を「仕丁(または衛士)」と呼びました。関東式に多く見られる仕丁は「親王のお出かけの世話」、京式に多く見られる仕丁は「掃除」の役割を担い、「宴会」を満喫しているものも見られます。雛段の中に登場する人形のなかで、唯一の庶民出身者で、立膝で座る指令の人形も見られます。雛段の五段目に飾られ、さまざまな背景を経て宮中に仕えることとなった人生の喜怒哀楽を、表情で表しています。
仕丁の持ち物と飾り方の東西差 ――お出かけ・掃除・宴会
宮中の雑務をこなす仕丁の役割を、人形の持ち物で表しています。関東で多く見られるのは、殿の台傘・殿(男雛)の履物を載せた沓台・姫(女雛)に差しかける立傘といった「お出かけセット」を持つ仕丁。関東式の親王は向かって左が男雛、右が女雛となるため、沓台(泣顔)を中心に、向かって左が台傘(怒り顔)、向かって右が立傘(笑顔)と並べる。
一方、京式の仕丁は熊手・ちりとり・箒の「お掃除セット」を持っているものがポピュラーです。並び順は、ちりとり(泣き顔)を真ん中に、向かって左に熊手(怒り顔)、右に箒(笑顔)の仕丁を並べることが多くあります。
他にも「宴会中の様子」として、杯・酒器などを手に、鍋や御馳走を囲む仕丁も見られます。
この宴会は、親王(男雛・女雛)の婚礼祝いの酒宴であるとか、仕丁としての雑役が明け、故郷に戻る前祝いの酒宴である、などと言われます。「お掃除セットの仕丁」と「宴会セットの仕丁」は、人形の並び順が違うものも見られます。
住環境などで段飾りが少なくなった現代でも、各地の雛展などで注目を集めています。
※台傘…男雛の雨除けに使用するので、台傘を持った仕丁は殿側に飾る
※沓台…男雛の履物を預かっている
※立傘…女雛に差し掛けるものなので、立傘を持った仕丁は姫側に飾る
日本人形協会発行「にんぎょう日本」2019年5月号「素朴なギモンvol.61」を一部編集して掲載