伝統ある日本人形文化の
振興と継承のために

五月飾り――飾り馬

飾り馬をご存知でしょうか? 端午の節句に飾る五月飾りの一種です。飾り馬を節句に飾るようになったのは、古来、馬が大将および重臣らの乗り物であり、また神の乗り物ともされてきたから。華麗な馬具で飾り立てた馬が跳ねる・駆ける姿は縁起良く、男児の健やかな成長と立身出世を願うのにふさわしい節句飾りといえます。

華麗な飾り馬

「飾り馬」とは、元来、馬具を華麗に飾りつけた馬の意であり、特に大和鞍を置いて、轡、三懸(面懸・胸懸・尻懸)、鐙、障泥などを装着した馬を指すことが多いが、人形業界では神馬や裸馬の類に対しても「五月飾りの馬」の意で用いることがあります。馬は武士にとって鎧兜とともに、地位を示す乗り物の一つ。節句飾りの飾り馬が、現在よく見られるような写実的な馬の姿となってきたのは、五月飾りが外飾りから座敷飾りになる江戸時代後期からと考えられています。

馬の毛並みを見事に再現する本奉書

飾り馬を製作するための技法にはいくつか種類があります。奉書、縮緬、毛植、木彫彩色、塗上など。塗上は、桐塑の生地に胡粉を塗り、筋肉や血管を置き上げ技法で表現して顔料で色付けします。
明治~昭和戦前期には、精巧で高価な毛植や、塗上技法の飾り馬が盛んに作られたが、昭和戦後になると比較的安価な奉書と縮緬技法が中心となりました。しかし、いずれの製作も熟練の高度な技術を要し、現在では伝承者も稀有な存在となっています。
とりわけ、奉書の飾り馬は、馬の美しい毛並みを再現するために「奉書紙」を用いたものです。奉書紙とは楮を原料とした上質な和紙の一種で、しわがなく純白なのが特徴です。この和紙を手作業で細かくちぎって貼り、滑らかな毛並みを巧みに表現しています。特に、古来の手漉きによる「本奉書紙」を使用した飾り馬は珍重されています。
馬に代表されるように、十二支の動物は親しみがあり、私たちの生活に定着しています。造形物として人気のあるものも多く、丑(牛)、戌(犬)、申(猿)などはさまざまなデザインや作品を目にする機会が多いです。
なかでも午(馬)は特別に多いです。昔から軍事、運輸、農業他、あらゆる産業の中で人々と深いつながりを持っているため、より多くの造形物が作られている動物といえます。日本人にとって“馬”は特別な存在なのかもしれません。
一部地域を除き全国で藁で馬を作る風習があります。藁馬は神仏の乗り物、依代と意識され、正月や盆の行事、七夕に飾ります。養蚕、農耕、子どもや馬の健康祈願などに作られています。

日本人形協会発行「にんぎょう日本」2023年9-10月号「素朴なギモンvol.83」を一部編集して掲載【画像提供/あおう人形】

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